花 おくり

俺は女の子が大好きなんだけど、だって可愛いし、優しいし、お菓子くれるもんね。それってすっごくいいことでしょ?
でも、気付いちゃったんだ。俺、もしかして日本が好きなのかも!
日本って黒い髪がきれいだし、もちろん女の子みたいな顔じゃないけど、童顔でバンビーノみたいで、黄色っぽい肌も俺の家の人みたいに日に当たりまくってないからかな、ほくろとかシミとか、全 然ないんだよね。この前だって

「わーすべすべだあー」

ってふにふにしたら、

「な、な、」

って言ってから、真っ赤になって

「いきなりなんですか!なんなんですか!!」

ってテンパッちゃって初心だなあとか、思ったりしたんだ。そのこと話したら

「私はあなたより年上です!」

って。まあ、見た目でわかんなきゃ、関係ないよねー。日本が童貞かは知らないけど、俺はそうだから、そういう奴に初心とか思われちゃうんだよ。ぷぷぷ、かわいーなあ。
でもって、相談したほうがいいのかなあって、ほらよく相談所みたいなのあるでしょ、恋の悩みとかって奴ー。兄ちゃんにこのこと話したらさ、

「知るかよバカヤロー!なんで俺に聞くんだ!」

って怒られた。顔が真っ赤になっちゃって、ベスビオ火山だって笑っちゃったんだけど、兄ちゃんがなんでそんなに爆発しちゃったのかって言うと、女の子にふられちゃったんだって。いつものこと なんだけどね、兄ちゃんかっこいいと思うのに、なんでか失敗してばっかなんだ。俺に八つ当たりするし、やなんだけどねー。もしかして、気障なのって嫌われるのかな?兄ちゃん口を開けば

「そこのきれいなお姉さん」

とか言うし、恥ずかしがっちゃうんだよね、きっと。勿体無いなー、スペイン兄ちゃんは

「あいつが初めて覚えた俺んちの言葉もそんなんやでー」

って言ってた。どんな言葉なのかは

「悪いんやけどな、こればっかりはイタちゃんにも教えられへんなあ、ばれたら絶対あいつ拗ねるからなぁ。ロマーノに聞いてなー」

て教えてもらえなかったけど、兄ちゃんは昔からそんなんなんだってことは分かったんだ。でもそんな感じのって兄弟なんだから僕にもあるはずなんだよね。気障っていうの、難しかったよ!本当言うと今でもよくわかんないんだー。
だから、よし!って気合入れて、ピッツァ食べて日本の家に飛び込んだらなんだか変なにおいのするもの食べてた。“ミソ”とか“タクアン”?確か、昔ドイツが禁止だ!って一時期言ってた食べ物 だ。勧めてくれたけど、日本の朝ごはんみたいだったし、正直あんまり食べる気しなかったし、ピッツァお腹に詰め込んでたから断っちゃった。悪いことしたかなー。
俺は出がけに花屋に寄って、機嫌がよさそうだって言われたから、今日は告白するんだって元気よくおじさんへ報告した。したら買った花に飾りを付けてくれて、俺の頭には兄ちゃんが前使っていたナンパの仕方が浮かんだ。ちょっと考えて、その失敗しちゃった作戦を改良して実践することにした。おじさんに感謝ー。 それで、ここからが本番。








「今日はどうしましたか?」

何も予定はありませんでしたよね。日本は眠そうな黒い目を心配そうに俺へ向けながら話した。

「うん、ないよ!ただ俺が用あったから、きちゃったんだー」

「あ、それは、よかったです。最近記憶力に自信がないもので・・・」

年ですかねって、“ケンソン”ってのみたいな口調だった。うーん、とてもそうは見えないけど、日本ってかなり長生きなんだよね。俺のことも

「イタリア君」

だし、年下扱いで、お爺ちゃんだ。う ん、見えない。一人で頷いたら日本が怪しく思ったのかちょっと顔を逸らして横目で見つめていたけど、でも何も言わなかった。

「ねー家に入っていい?」

「勿論ですよ、生憎散らかっていますが」

どうぞって言ってくれた。
日本の家は靴を脱ぐのが習慣だから俺は靴を端っこに寄せてひょいっと足を踏み入れた。案内されたのはタタミって云う床の部屋で、前に来たときと同じように真ん中には俺お気に入りのこたつがある。蜜柑もあった。慌てて退けた感じがする紙とペンと、インクみたいなビンは初めて見たかな。あの時はドイツも一緒だったけどって思ったらちょっとどきどきした。それに、この部屋の匂いも、俺にはちょっと刺激的だ。今までそんな風に感じたことはなかったのに、今日はやけに、草のにおいがすうって胸の中に広がる。

「どうぞ」

「あ、ありがとねー日本」

掛け軸という日本流の家具を背中にしたほうからこたつに入る。なんだか温かいのはただ電源が入っているからで別に日本の体温じゃないんだろうって言うのはわかってるんだけどね。わー恥ずかしい。 ソチャ、蜜柑、

「よろしければ」

ってサクラモチ。

「わー美味しそうだね!」

さり気なさを装ってお菓子だけを引き寄せると、日本はかすかに笑ってお茶を啜った。あんなに苦いの、よく飲めるなあ。年の功って奴なのかな。うん、俺には無理そう!
桜餅を齧ってみる。ピッツァ・ナポレタナみたいにふにふにしてる。兄ちゃんのところで食べたピザだけど、あのときは感想言うまで兄ちゃんは俺のことずっと見てて怖かった。

「わーなんか伸びるよ!」

「餅ですから」

少し誇らしげな顔だった。もしかしたら日本の手作りかな。そうじゃなくても、日本は結構、褒められると弱い。なんだか守ってあげたいような感じかな。まあ、結局守ってもらうのは俺なんだけど 、だって、俺って弱いからねえ。


「・・・あのさー、日本?」

「なんでしょう」

「俺って格好良いかなー」

「や、藪から棒になんですか」

ヤブカラボーってなんだろう、と俺も思ったけど、真正面に座ってる日本を見つめてた。たぶんここで聞いたら話題を逸らされちゃって、俺もそれに乗っちゃう気がしたから。
日本は顎に手を当てて、少し顔を伏せた。そうすると更に身長が小さく見える。俺が172センチで、日本が、えーと、165センチだったかな?わー、なんと!7センチの壁だー。俺の家の女の子 と大して変わんないんじゃないかな。

「ねーねー」

「・・・・・・・・・さあ」

沈黙が長かった。ちょっとショックだ。日本はよくオセジ、えーと、話術の一つ?魔法みたいな名前、を使うらしいんだけど、何だか違う。


「イタリア君は、可愛い、ですかね」

ショタ系というか、天然ですし、やっぱポイントは高いんでしょうか。
小さく呟くみたいに言った言葉の意味は良くわかんなかったけど、なんとなく褒められてるのかなあって思った。俺の顔はたぶん赤くなってた。

「ヴェー」

と喜んだら日本はこっちを覗き込んできて 、俺は、今だって思った。

「好きだよ」

引かれちゃった。 日本はずざっと顔を遠のかせて、

「え、え、どうしたんです、」

ヴェヴェヴェって誤魔化すみたいに笑った。

「ねえ、これってなんて書いてあるの?」

「え、―――」

差し出した一輪の薔薇に絡めたアリスブルーのリボン、そこに金色で印字された短い言葉。


『Ti amo』


俺のことば。先に恥ずかしくて俯いたのは、俺のほうだった。足袋越しに触れた、ちいさな日本の足が熱い。

2009-06-14