「・・・ん?」
今、気味の悪い視線を向けられた気がする。もしかしなくてもあいつか。黒い奴か。昨日は冷たくあしらったし、まさかつけられてる?有り得ないことではない。というか、たぶんどこか近くにいる んじゃないか。「誰だ、それは!」
「や、ちょっとした知り合い?なんだけど、なんで怒ってるの?」
わかるんだけどね、さすがにそこまで鈍感じゃないし。こういったベアトリーチェの言動は諸事情により理解できないふりをしているけれど、この場合、本当になんでもなかった。むしろあの人には 嫌われてるし。「それは・・・内緒だ」
なんというか、わかりやすいよね、ベアトリーチェって。顔赤いし。ストロベリー味の氷菓子に下を這わせ、マリアローズはこっそり苦笑した。ていうか、ベアトリーチェの食欲ってすごい。そんなに食べるほうではないと思っていたのだが、どうやらお菓子は別腹、という奴なのか。ここから少し離れた店でケーキを平らげてからまだ数分しか経っていないのに、彼女の手には二段に重なるコーン入りのアイスが掴まれている。ちなみにベアトリーチェのはマリアローズがおすすめしたチョコミントと、レーズン。マリアローズのは一段だけで、ストロベリー味だ。「追い掛けなくていいのか?」
さっきよりは大分落ち着いた声だった。不満成分は未だ含まれたままであるが。「うん、もう見えなくなっちゃったしね」
「そうか」
「そうだね、まあ、たぶんまた会うこともあるだろうし」
「・・・そうか」
ふて腐れてマリアローズとの間に隙間を開けたベアトリーチェの身体に紙袋が当たってかさりと音を立てた。いくつかあるそれらの中身はアサイラムの切らしていた消耗品が大部分を占めている。モ リーは今日は遊んできなさいと軽い調子で笑っていっていたけれど、いつの間に自分でメモをしてきたらしい。石鹸だとか、買い替えるタオルの枚数だとか。偉い。これも仕事だとベアトリーチェは 思っているに違いないけれど、いつでもアサイラムの―――モリーのことを考えているのはすごいと思う。「これって」
もっと自分の服も買ったほうがいいと思うんだけどね。値段とかを気にしているのか、ベアトリーチェはあまり物を買わない。遠慮しているようなふしさえある。倹約家は、マリアローズにとっては 知り合いであれば好ましく感じられる性質なのだが、十代の女の子と考えるとちょっと違う。紙袋を目で追うマリアローズが不思議だったのか、頬についていたアイスを拭ったときから冷めないほて った顔をわずかに傾げたベアトリーチェに、マリアローズは笑みを向けた。そしてよく変な名前の園長がしてくれるように頭を撫でた。「な、な、な、」
うん、柔らかい髪。くすんだ金色は昼下がりの陽光を浴びて暖かな色彩を帯びた。きらきら。なんだか楽しい。トマトクンが髪をくしゃくしゃにして撫でてくるのってこういう理由ではないだろうけ ど、すごく暖かくなるというか。